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遺留分減殺と権利の濫用

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遺留分

 

遺留分請求と権利の濫用

遺留分請求が否定されてしまう例外的なケースの話です。

 

遺留分減殺請求権は、一部の相続人に認められた最低限の権利です。
自分の最低限の遺留分まで侵害されるような、遺贈等がされたときに、これを取り戻すためのものです。

そのような遺留分減殺請求権は、法律で認められた権利ですが、これを使うことが、権利の濫用として認められなくなることもあります。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.28

権利の濫用となる2つの類型

文献等によると、権利の濫用として、遺留分減殺請求権が使えなくなるパターンには、2つの類型があります。

1 養子や配偶者の場合で、破綻状態にあるなどの事情で、遺留分の請求が真義にもとる事由があるようなケース


2 相続人間で遺留分の放棄の合意がされていて、遺留分の請求が公平を害するケース

 

1の場合、本来であれば、離婚や離縁により、養子や配偶者は相続人となりません。
ただ、何らかの事情で、法的な離縁手続がされず、戸籍では親子関係が残ってしまっているケースです。

このようなケースで、養子側からの遺留分請求を権利の濫用として否定した裁判例がいくつかあります。

 

たとえば、養子が、病弱な68歳の養親を見捨てて家を出て、25年間、ほとんど音信不通だったのに、この養子が遺留分減殺請求をしたケースで、遺留分制度は、被相続人と遺留分権利者との間にその身分関係に応じた交流、信頼関係があることが予定されているところ、これが失われたとして権利の濫用として遺留分請求を否定した裁判例があります。

このパターンでは、養子からの遺留分請求を否定するケースはいくつかあります。

配偶者の場合には、養子よりもハードルが高く、離婚していない以上、結局、遺留分請求が認められていることがほとんどです。
実子の場合には、このパターンでの主張は通らないと考えていた方が良いでしょう。

 

配偶者のケースで、遺留分の請求が通った事例があります。
・夫は妻に暴力
・夫の不貞
・12年の別居
・妻は夫に自分の財産を相続させないという遺言を作成
・妻は離婚調停の申立(取り下げで終了)
という前提事実で、妻が死亡、夫からの遺留分減殺請求を、法的な離婚が成立していない以上、権利の濫用にはならないとして、認めたケースです。

権利の濫用の主張を通すには、かなりハードルが高いことがわかります。


次に、 権利の濫用として、遺留分減殺請求権が使えなくなる第2のパターン。


2 相続人間で遺留分の放棄の合意がされていて、遺留分の請求が公平を害するケース です。

 

遺留分減殺請求の権利を、被相続人の生前に放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。
この許可がなければ、相続人間や被相続人との間で、放棄するという合意をしても、法的な効力はありません。

ただ、実際には、家族ということもあり、相続人を信じて、そのような合意をして済ませてしまうケースも多いです。
そのような場合に、合意を翻して、相続人が遺留分減殺請求をし、他の相続人などから、約束が違う、と権利濫用の主張がされるという争いになります。

裁判例でも、権利濫用の主張が通り、遺留分の請求が否定されたケースはあります。

たとえば、
介護がらみで、長男が母の介護を放棄、長女が長期間介護、その際、母の遺産である不動産を長女に相続させる旨の遺言を作成、長男を含めた他の相続人からは遺留分減殺請求権を行使しない内容の書面が交付されたというケースで、長男等が遺留分減殺請求をしたところ、権利の濫用として否定したというケースです。

この第2のパターンでは、相続人間の公平性や、家庭裁判所の許可を申し立てていれば、認められそうなケースだったかどうか、などが検討されているようです。

遺留分減殺請求は、法律で認められたものであり、これを簡単に権利の濫用として否定できるものではありませんが、過去に事例もありますので、主張することが有効と考える状況では、選択肢の一つになるでしょう。

参考文献 民事裁判実務の重要論点 基本原則 権利の濫用編

 

裁判官が説く民事裁判実務の重要論点[基本原則(権利の濫用)編]
裁判官が説く民事裁判実務の重要論点[基本原則(権利の濫用)編]

 


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