よくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.特別縁故者の地位の承継は?
特別縁故者の申立後に死亡した場合の地位の承継と、他の親族への贈与契約が意味を持つか問題になった裁判例があります。
特別縁故者の申立を検討している人は、裁判所の重視ポイントがどこかチェックしておくと良いでしょう。
山口家庭裁判所周南支部令和3年3月29日審判です。
相続人がいない財産
被相続人(昭和34年生)は、婚姻歴がなく、子もなし。
父、母、兄も先に死亡。
第2事件申立人は、母の姉妹の子であり、被相続人のいとこ。
被相続人が死亡。相続人はいませんでした。
被相続人の叔父及び従姉妹が特別縁故者だとして相続財産の分与を申し立てた事件です。
特別縁故者は、相続人がいない人の相続手続きで、相続財産管理人を選任したうえで、債権者などもいなければ、被相続人と特別の縁故関係にあった人に財産を分与する制度です。
その後、残った財産は国に帰属します。特別縁故者は、国に相続財産を帰属させる前に分与してもらう手続きです。
生活及び交際の状況
特別縁故者とされるには、被相続人との交流等が重視されます。その点を裁判所も認定しています。
被相続人が3歳くらいのころに近くの借家を借りて、転居。
その後は、Jと被相続人の交流もあまりなくなったものの、時折会って食事をともにすることはあったと認定。
Jと母との間でもJが母を見舞うなど、一定の交際は続いていました。
母は、自分亡き後の被相続人のことをJに頼みたいと発言したこともありました。
Jは、兄及び母の葬儀にも参列。母の葬儀の際には、喪主である被相続人に冗談のように「僕の時はおじさんよろしくお願いします」といわれたとのこと。
家族間の交流
Lは、母、兄及び被相続人からなる家族とは親しく交流していました。
兄を自己の経営する会社で雇用する、いろいろと相談に乗る、兄が同県内で死亡した際は、葬儀、相続手続、保険金受領及び兄の遺産や生命保険金を元手とした母による住居購入を取り計らう、時には他県まで出向く、相談に乗るなどの援助を行うこともありました。
第2事件申立人が昭和54年に出生した当時、母及び被相続人は、第2事件申立人の住居の近隣に居住。
第2事件申立人は、平成11年に婚姻により転居するまでの間、近隣に住む被相続人と交流があり、第2事件申立人は被相続人を「お兄ちゃん」と呼び、被相続人は幼少の第2事件申立人の世話をよくしていた関係。
ただ、兄とは、既に転居していたため、会ったこともなかったという関係。
その後、母及び被相続人は、平成21年に購入した本件住居に転居。
そのころ、被相続人は、第2事件申立人に対し、「自分は結婚しないし、母が死亡したらお前にやる」という旨を言われたことがありました。
母及び被相続人の上記転居の前後を通じて交際や生活上の協力関係は続いており、例えば、母や被相続人が第2事件申立人を訪ねる、第2事件申立人が母を買物やドライブに連れて行く、第2事件申立人が母や被相続人を訪ねるなどということがありました。
会っていた頻度や財産の発言
平成27年ころ、母は病気で入院し、退院できないまま、平成30年に死亡。
第2事件申立人は、入院中の母を見舞い、被相続人に頼まれて本件住居の合鍵を預かっています。
一人暮らしの被相続人のため食事を持って行ったことも。
母の葬儀には第2事件申立人も参列。被相続人も、一人暮らしになった以降、「第2事件申立人の子供にお菓子を買ったのでとりに来い」「お歳暮が届いたのでとりに来い」という旨を連絡。
第2事件申立人を本件住居に呼び寄せて会話をするなど、月1回程度の面会の機会をもっていました。
そのころ、第2事件申立人は、被相続人から本件住居につき「お前の家になるけえのう」と言われたことがあったとのこと。
保険の受取人も変更
被相続人は、自らが契約者兼被保険者である平成16年2月契約の生命保険契約につき、死亡時の保険金受取人を母としていたが、平成30年■月■日、死亡時の保険金受取人を第2事件申立人に変更。
保険金受取人変更前から連絡先として第2事件申立人の氏名、住所及び電話番号を届け出ていました。
その後、被相続人の死亡に伴い第2事件申立人は保険金1256万2356円を受領。
被相続人の第2事件申立人に本件住居を譲るかのような被相続人の発言は第2事件申立人の陳述以外の証拠資料がないが、被相続人が第2事件申立人を保険金受取人と変更し、保険金の金額も葬儀や供養といった最低限の後事のために要する金額を明らかに超えていること、本件住居のような不動産は家産として重視されることが多く、被相続人が親密な血縁者に承継させようとすることは自然といえることに照らすと、第2事件申立人に財産を残そうとする被相続人の意思が推認でき、この意思に整合する第2事件申立人の上記陳述内容は信用できると認められるとしています。
被相続人の死亡
被相続人は、母から相続した本件住居で一人暮らしをしていたが、平成30年■月■日、勤務先に出勤してこないため、警察が通報を受けて、本件住居の内部を確認したところ、既に死亡している被相続人を発見。
被相続人は、特に健康上の問題を指摘されておらず、前触れのない突然の死亡でした。
警察は、前同日、第2事件申立人に被相続人の死亡を連絡。
葬儀費用の立替
Jは、第2事件申立人から連絡を受けて、被相続人の葬儀の手配を引き受け、その費用も立て替えました。
そのほか、未払の医療費、各種手続の費用等も立て替えています。
Jの妻及び第2事件申立人も葬儀等に参列。
相続財産管理人選任後の経過
被相続人は、法定相続人となるべき者がいなかったため、被相続人の相続財産管理人が選任されました。
公告による相続債権者受遺者への請求申出の催告を経て、相続人捜索の公告もなされたものの、期間満了日までにその権利を主張する者はなし。
そこで、Jは、特別縁故者に関する第1事件を申し立て。
Jは、家の墓じまいや永代供養のために必要となる費用300万円程度の分与を希望。
自宅不動産を所有していない第2事件申立人のため、本件住居及び建物の改修費用を第2事件申立人に分与することも希望していました。
その後、第2事件申立人は、第2事件を申し立て。
自宅不動産を所有していないため、本件住居及びその建物の改修費用の分与を受けることを希望。
ただし、その後、相続財産全部の分与を希望する旨に希望を変更しています。
相続財産の内容
被相続人の主な遺産は、本件住居、現金及び預貯金。
相続財産管理人は、預貯金の整理、債務支払等の清算を行い、この中でJに対する葬儀費用その他の立替金を償還。
固定資産税評価額合計722万円程度の本件住居、これに附属する火災保険及び3614万円程度の預金が相続財産となりました。
本件住居は、昭和48年新築の鉄骨造りの建物であるが、建築基準法上の接道要件の関係で、建替えに困難があると指摘されています。
本件住居を改修するために要する金額は工事費用241万1869円、残置された家財道具の廃棄費用22万円及び庭木の処理及び切断の費用2万9700円で、合計266万1569円程度と見積もられています。
特別縁故者申立人の死亡
Jは、特別縁故者の申立後に死亡。
そのため、Jの共同相続人(妻及び子ら)である第1事件申立人らは、第1事件の手続を受継。
なお、このように特別縁故者に対する相続財産分与を申し立てた者が、申立て後、死亡したときは、その者の相続人は、その者の申立人としての地位を承継して財産の分与を求めうると解されるとしています。
ただし、家庭裁判所は、特別縁故者に対する相続財産の分与は、特別縁故者その人に対するものであっても、家庭裁判所が「相当と認めるとき」に限り行われるべきものであるから、申立て後、死亡した者が特別縁故者に該当する場合であっても、その相続人に相続財産を分与することの相当性は、被相続人と死亡した特別縁故者の相続人との間及び死亡した特別縁故者とその相続人との間の関係、申立て後、死亡した者が特別縁故者と認められる事情に対するその相続人の関わりの有無、程度等の諸事情も勘案して判断することが相当であって、各相続人に分与する財産の割合も必ずしも法定相続分に従う必要はないというべきであるとしています。
財産分与された場合の使い道も主張
第1事件申立人らは、特別縁故者に対する相続財産分与の申立てにつき、Jの生前の希望と同様の意向を有しており、相応の金額の分与を受けたときは、墓じまい、永代供養等、被相続人及びその家族の供養のための費用に充てることを予定しているとのこと。
第2事件申立人は、令和3年2月10日、L及びその妻との間で、第2事件において、第2事件申立人に対する相続財産の分与審判が確定することを停止条件として、第2事件申立人から分与審判で分与された財産総額から弁護士費用、相続税相当額、不動産の固定資産税評価額及び建物リフォーム費用240万円を控除した残額の15パーセントをLらに対しそれぞれ贈与する旨の書面による贈与契約を締結。
この贈与契約では、その趣旨として、Lらの被相続人、母及び兄に対する支援、被相続人の遺産に対する貢献などを考慮し、Lらが既に申立期間(民法958条の3第2項)経過のため、特別縁故者に対する相続財産分与の申立てができないことを実質的に補填する意味もあるという旨がうたわれていました。
他の親族は、特別縁故者の申立ができなかったので、そこに贈与するとの書類が作られたとの主張です。
裁判所は特別縁故者と認定
家庭裁判所は特別縁故者と認定しています。
検討すると、J及び第2事件申立人は親戚として被相続人やその家族と交際や生活上の協力関係があったものであり、かなり以前の過去の時期ではあるが、同じ、又は近隣の建物に居住し、相当に親密な交際や生活上の協力関係のあった時期もあったと認定。
被相続人の生前の意向を見ても、身寄りのない自分が死亡した後の後事や財産をJや第2事件申立人に託そうとする意向を示す言動が認められ、被相続人とJ及び第2事件申立人との間で、そのような意向を生じるような信頼関係とこれを形成させたに至る親密な交際や生活上の協力関係があったことがうかがえると指摘。
Jは、被相続人死亡後の葬儀等にも尽力し、今後も被相続人らP家の供養を行う意向であったとしています。
以上の事情を総合すると、J及び第2事件申立人は、被相続人との間に具体的、現実的な縁故関係があり、相続財産を分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度の特別の関係があったと認められ、「被相続人と特別の縁故があった者」(民法958条の3第1項)に当たるとしました。
財産形成への寄与があれば主張しておくべき
ただ、J及び第2事件申立人が被相続人と生計を同一にしていた時期はなく、Jが幼少時の被相続人の世話をしたことを除けば、被相続人の療養監護に努めたともいえない点を指摘。
認定した交際や生活上の協力関係の程度も、通常の親戚付き合いの程度を顕著に超えるものとまではいえないとしています。
被相続人の相続財産はかなり多額であるが、母及び兄から受け継ぎ、又はともに維持・形成してきたものと推察され、それ以外の親族に資産維持・形成における特別な寄与があったことは明らかでないこと、Lも被相続人及びその家族との関係は親密であったことも指摘できるとしています。
第2事件申立人の被相続人との交際や生活上の協力関係の程度は、Jと比較しても、やや緊密であったといえるが、既に被相続人の財産からの出捐に由来して多額の保険金を受領していることも考慮する必要があるとしています。
他の親族への贈与契約はそれほど有効でない
なお、第2事件申立人がLらとの間で停止条件付き贈与契約を締結していることは、第2事件申立人が本審判で分与される財産を独り占めするのではなく、被相続人及びその家族との関係が親密であったL及びその妻とも分かち合おうとしていることを示すから、分与の相当性をより基礎付けるものといえるとしました。
ただし、Lらは、自身では申立期間内に特別縁故者に対する相続財産の分与を申し立てていないから特別縁故者として相続財産の分与を受ける余地がない者であり、第2事件申立人と停止条件付きの贈与契約を結ぶことで、いわば第2事件申立人を介して、申立期間の制限を超えて実質的に相続財産の分与を受けるような結果をもたらすことは申立期間の制限の潜脱となって相当でないから、Lらと被相続人との間の交流や関係を第2事件申立人のそれと同視したり、第2事件申立人に対する分与にLらが期間内に申し立てをすれば分与を受けられたであろう財産の額を上乗せしたりすべきではないとしています。
分与額は経費に数十万円の加算か
以上の認定判断を総合すると、第1事件に関してはJが分与を受ける財産を用いて被相続人らP家の墓じまいや永代供養を行おうとしており、第1事件申立人Bがこの遺志を引き継いで墓じまいや永代供養を行う予定であることに照らし、そのために必要な費用及び尽力に対応する分として、まず第1事件申立人Bに対し320万円を分与することとし、さらに被相続人の生前及び死後におけるJによる尽力に対する謝礼の趣旨も勘案して90万円を分与して、Jの相続人である第1事件申立人らの法定相続分に応じて、これを分配することが相当であるとしました。
第2事件に関しては、被相続人の生前の意向及び第2事件申立人の希望を考慮して、本件住居に係る不動産である別紙「財産目録」記載1の不動産及びこれに附属する火災保険である同記載3の保険に加え、本件住居の改修を行うための費用として必要な金額及び被相続人の生前及び死後における第2事件申立人による尽力に対する謝礼の趣旨も勘案して400万円を分与することが相当であるとしました。
特別縁故者の申立後の死亡
特別縁故者の財産分与申立をした後に、申立人が死亡し、相続が発生することがあります。
この場合、特別縁故者の地位は相続人に引き継がれるのか問題になります。
本審判では、特別縁故者に対する相続財産分与を申し立てた者が、申立て後、死亡したときは、その者の相続人は、その者の申立人としての地位を承継して財産の分与を求めうると解されるとしています。
ただ、相続財産を分与することの相当性は、諸事情も勘案して判断することができるので、最終的に分与される財産は、法定相続分とは異なる点を指摘しています。
なお、特別縁故者の申立前の死亡の場合には、相続による地位の承継はないとされています。
一身専属性を有する恩恵的権利だとされ、相続の対象とはならないのが原則とされています。
裁判例でも、特別縁故者が申立てをしないまま死亡した場合には、相続人は特別縁故者の地位を承継することはできないとしています(東京高決平16.3.1)。
他の親族への贈与契約による分与財産の加算
本件では、他の親族への停止条件付き贈与契約があるのが特徴的です。
一応、この契約については、分与される財産を独り占めするのではないことを示すものとして、分与の相当性をより基礎付けるものになるとはしています。相当性にプラスに働くので、ないよりはマシかもしれません。
ただ、彼らは、自身で特別縁故者の申立をすればよかったのに、期限を過ぎただけの話ですので、そのような場合に、他の申立人を通じて実質的に財産を分与させるのはよくないと指摘されています。
このような贈与契約があるからといって、他の親族にわたす財産分が上乗せされることにはならないということです。
特別縁故者の申立期限
特別縁故者の財産分与申立の期間は、相続人捜索の公告期間満了後3か月以内とされています(民法958条の3第2項)。
この期限を過ぎた申立ては不適法として却下されてしまいます。
期限を過ぎたかどうかは、申立人ごとに判断されます。
事件も、申立人ごとに判断されます。本件でも、第1事件、第2事件との呼び方がされています。
本件では、期限を過ぎてしまった関係者に対し、贈与契約をすることで対応しようとしたように見えますが、申立期間の制限を潜脱するような判断はされず、分与の相当性を判断する事情にすぎないとされています。
特別縁故者の財産分与は、相続人がいないような場合の話ですので、親族を含めた関係者間でも連絡が密に取れておらず、情報共有がされていないことも多いです。
後から、自分もやりたかったと言っても遅いので、しっかり情報収集、共有はするようにしておきたいところです。
財産分与額
本件では、特に第2事件の申立人が、全部分与を希望するとの意見を出していましたが、これは認められていません。不動産とリフォーム費用に一定額が加算された金額が分与されています。
その他は、国庫帰属となるでしょう
最近では、全部分与の事案は、実質的に相続人といえるような立場の縁故者か、相当な寄与がないと厳しいという印象です。
都市部の家庭裁判所以外に、神奈川県の支部などでも全部分与よりは一定額の分与にとどまることの方が多いです。
相続財産管理人の意見も一応聞かれますが、あまり重視されていない印象です。
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