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FAQ(よくある質問)

 

Q.遺産分割が禁止されるケースとは?

家庭裁判所に遺産分割の申立をしても、分割が禁止される場合があります。

相続人が誰かとか、遺言の有効性に争いがあるなど、先に話をつけないといけない前提問題がある場合です。

今回は、遺言の効力が争われているために、遺産分割が禁止された名古屋家庭裁判所令和元年11月8日を紹介します。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.28

事案の概要

被相続人は、平成22年4月30日、その姪に当たるYと養子縁組。

平成23年11月18日、Yに対して全財産を相続させる旨の自筆証書遺言を作成。

被相続人は、平成23年12月10日、長男に対して全財産を相続させる旨の自筆証書遺言を作成。

平成24年3月29日には、長男の子であるX1及びX2、X1の妻であるX3並びにX2の妻であるCと養子縁組。

被相続人は、平成28年に死亡。

被相続人が死亡した時点では、長男及びCは既に死亡していました。

 

X1~X3は、Yを相手方として遺産分割の審判を申し立て。

審判の申立後にYが自己の相続分の50分の1をその夫に譲渡し、夫が当事者参加。

 

双方が養子縁組無効確認訴訟を提起

姪との養子縁組に対して、申立人らがその無効確認を求める訴訟を提起していましたが、同訴訟の控訴審において請求棄却の判決が言い渡され、その後、同判決は確定。

 

姪からも、被相続人と長男の子や妻らとの養子縁組に対して、無効確認を求める訴訟を提起したものの、請求棄却の判決が言い渡され、その後、同判決は確定。

相続人については、養子縁組どおり決まった形になります。

 

遺産分割審判と調停

申立人らは、平成29年12月15日、本件審判を申し立て。

これに対して、裁判所は、平成30年3月28日、本件を名古屋家庭裁判所豊橋支部の調停に付するとともに、本件調停事件が終了するまで審判手続を中止する旨を決定。


しかし、本件調停事件は、平成31年1月18日に調停不成立となり、本件審判手続が再開されるという流れでした。

 

遺言の撤回に関する当事者の主張

申立人らの主張は次のとおり。

本件第1遺言は、これと抵触する本件第2遺言により撤回された。

かつ、本件第2遺言は、全財産を相続させるものとされた長男が被相続人より前に死亡した場合には、長男の代襲者たる申立人らに全財産を相続させる趣旨のものである。

被相続人の遺産は、すべて申立人らに相続される。

 

これに対して、姪及び当事者参加人の主張は次のとおり。

本件第2遺言は、全財産を相続させる対象とされた長男が被相続人より前に死亡したことで失効。

その結果、本件第1遺言は撤回されることなく効力を維持する。

被相続人の遺産は、すべて姪らに相続される。

 

申立人らは、本件審判手続において、本件第1遺言の無効確認等を求める訴訟を提起する旨の意向を表明。

 

結局、遺言の効力について主張が真っ向から対立している状態です。

 

 

遺産分割に対する家庭裁判所の判断

被相続人の遺産の全部について、令和3年11月7日までその分割をすることを禁止するものとしました。

遺産分割の申立をしているのに、分割禁止としたものです。

 

 

遺言の効力に争いがあるから遺産分割禁止

被相続人の遺産分割については、その前提となる本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等に関して当事者間に争いがあり、その効力等の如何によって、相続人の範囲や各自の相続分が大きく左右される状況にあると指摘。

また、申立人らは、これらの争いを民事訴訟により解決すべく、その提訴を準備中であるとも言及。

このような状況下においては、当裁判所が本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等について判断の上で遺産分割審判をしたとしても、その判断が提起予定の訴訟における判決等の内容と抵触するおそれがあり、そうなれば、既判力を有しない遺産分割審判の判断が根本から覆されてしまい、法的安定性を著しく害することとなるから、本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等に関する訴訟の結論が確定するまでは、遺産の全部についてその分割をすべきではないとしました。

 

参考リンク:民事裁判の確定判決の既判力とは?

 

遺言の効力については、遺言無効確認訴訟など民事訴訟によることとされます。

遺産分割審判で判断しても、意味がないということになってしまうので、そのような判断を進めるべきではないとしたものです。

 

遺産分割の禁止期間

家庭裁判所は、遺産分割禁止の期間を2年間としました。


当事者間の争い及び申立人らが提訴予定の訴訟の内容、申立人らの提訴の準備状況その他諸般の事情に鑑みると、本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等に関する訴訟の結論が確定するまでには、向こう2年程度の期間を要することが見込まれるから、令和3年11月7日までの間、被相続人の遺産全部の分割を禁止することが相当であるとしました。

一般的な遺言無効確認訴訟では、筆跡鑑定等がされることが多く、時間がかかります。本件では、偽造等の主張はされていないため、鑑定が実施されない可能性の方が高そうですが、地方裁判所だけではなく、高等裁判所まで進みそうな対立具合です。高裁まで行くなら、1年では終わらなさそうということで2年と見積もったものと思われます。

 

なお、それより前に当該訴訟が解決に至った場合には、事情の変更があったものとして、分割禁止の審判を取り消し又は変更することが可能であるともフォローしています。

 

家庭裁判所は遺産分割禁止の審判ができる

家庭裁判所は、遺産分割請求の審判が申し立てられた場合、遺産分割をしなければならないのが原則です。

しかし、法律上、特別の事由があるときは、期間を定めて、遺産の全部又は一部の分割を禁止することもできます(民法907条2項、3項)。

この特別の事由としては、相続人資格があるかどうか、財産が遺産に帰属するかどうかなど、遺産分割の前提となる問題に争いがある場合が挙げられます。

養子縁組が無効かどうか争われているケースや、名義預金が誰に帰属するのか争われているようなケースがあります。

遺産分割協議の最初のステップとして、誰が相続人であるのか、の特定があります。その段階での問題がある場合の話です。

 

参考:相続手続きの手順

 

今回は、遺言の効力を巡っての対立がありました。

遺産分割の根幹部分といえる前提問題と認められ、この点を先に決めるべきと判断されたものです。

このような前提問題に争いがある場合、通常と調停段階で、一旦申し立てを取り下げ、民事訴訟が解決してから再申し立てをするよう指示されることがほとんどです。

本件での経緯は不明ですが、このような指示に従わず、裁判所が明示的に審判を出した可能性があります。

 

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