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FAQ(よくある質問)

 

Q.証券会社の株式の相続分は差し押さえできる?

証券会社の株式相続と差押えの関係が争われた事件があります。

最高裁平成31年1月23日第二小法廷決定です。

基本的には、差押えを肯定する方向です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.28

 

事案の概要

証券会社に口座を持ち、株式や投資信託受益権を持っていたAが死亡。


相続人は、債務者ほか4名でした。債務者の相続分は12分の1。

債権者が、債務者に対する権利を持っていた債権者。

債権者は、証券会社の振替口座の共有持分を差押えました。

社債、株式等の振替に関する法律2条4項の規定する口座管理機関とされる証券会社が備える、振替口座簿に開設した亡A名義の口座がありました。そこに記録された株式、投資信託受益権、および投資口につき、債務者の共有持分を差押えたものです。

執行裁判所は平成28年12月16日にこれを認めました。

さらに債権者は、本件差押命令にかかる株式等に対し、譲渡命令の申立て。裁判所は、これについても、平成29年7月3日に認めました。

債務者は、この譲渡命令に対して、執行抗告。

抗告裁判所は、職権で、振替社債等に関する強制執行の手続において、執行裁判所は、債務者が差押命令の対象となる振替社債等を有するか否かを振替口座簿の記録等により審査すべきであり、債務者以外の者の名義の口座に記録等がされた振替社債等に対する差押命令を発することはできない、本件差押命令は債務者の振替口座簿に記載されていない株式等を対象とするものだから違法とし、違法な差押えを前提とした譲渡命令も違法として、原決定を取り消し、譲渡命令申立てを却下。

この際、債務者に帰属するのは株式等の準共有持分であり、この譲渡があっても振替口座簿に譲渡を反映する増加の記載や記録はできないともしました。共同相続人全員の名義の口座に記録等をすることはできるものの、共同相続人の1人の名義の口座にその共有持分の記録等をすることはできず、当該共有持分についての譲渡命令が確定しても当該譲渡命令による譲渡の効力を生じさせることができないという内容です。

 

これに対し債権者が許可抗告を申し立てました。

 

最高裁判所の判断

原決定を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

というものでした。

譲渡命令ができないとした原決定を破棄しているので、基本的には差押えなどを肯定する方向となります。

 

まず、口座の記録の点について。

社債等振替法は、振替株式、振替投資信託受益権及び振替投資口についての権利の帰属は振替口座簿の記録等により定まるものとしています(振替株式につき128条1項等)。

また、被相続人が有していた振替株式等は相続開始とともに当然に相続人に承継され、口座管理機関が振替株式等の振替を行うための口座を開設した者としての地位も上記と同様に相続人に承継されると解されるとしています(民法896条本文)。

そうすると、被相続人名義の口座に記録等がされている振替株式等は、相続人の口座に記録等がされているものとみることができるとし、このことは、共同相続の場合であっても異ならないとしました。


したがって、被相続人名義の口座に記録等がされている振替株式等が共同相続された場合において、その共同相続により債務者が承継した共有持分に対する差押命令は、当該振替株式等について債務者名義の口座に記録等がされていないとの一事をもって違法であるということはできないと解するのが相当であるとしています。

 

次に、記録の可否と譲渡命令の可否を結びつけた点について。

共同相続された振替株式等につき共同相続人の1人の名義の口座にその共有持分の記録等をすることができないからといって、当該共有持分についての譲渡命令が確定した結果、当該譲渡命令による譲渡の効力が生じ得ないものとはいえないとしました。

そして、法令上譲渡が禁止されず、適法に差押命令の対象とされた財産について、これが振替株式等の共有持分であることのみから、執行裁判所が譲渡命令を発することができないとする理由はないというべきであるとしています。


したがって、執行裁判所は、譲渡命令の申立てが振替株式等の共同相続により債務者が承継した共有持分についてのものであることから直ちに当該譲渡命令を発することができないとはいえないと解するのが相当であるとのこと。


更に審理を尽くさせるため、原審への差し戻しとしています。

 

 

補足意見

裁判官鬼丸かおるの補足意見があります。

社債等振替法の下において、振替株式等の共有持分のみを単独で共有者1人の名義の口座に記録等をすることはできないとしても、振替株式等が相続の開始により共有に属するに至ることは容易に想定されることに照らせば、口座管理機関が振替株式等の共有者全員の名義の口座(以下「共有口座」という。)を開設し、共有口座に共有に属する振替株式等について記録等をすることが禁じられているとは解されないとしています。

これを前提とすれば、振替株式等が共同相続の対象となって共同相続人の1人である債務者に承継された共有持分についての譲渡命令を得た差押債権者としては、被相続人名義の口座に記録等がされている状態のまま債務者以外の共同相続人全員との間で共有物の分割をして単独所有とすることができることはもちろん、そのほかに債務者共有持分を含む振替株式等につき、被相続人名義の口座から債務者以外の共同相続人全員及び差押債権者の共有口座への振替手続を行うことによって自らが共有者の1人であることを表示することができると考えられるとのこと。

しかし、その具体的な方法として現時点では現実的な方法はなさそうです。

 

具体的には、差押債権者に加えて債務者以外の共同相続人全員が、共同で、差押債権者及び上記共同相続人全員の共有口座の開設を特定の口座管理機関に対して申し込み、上記口座管理機関から上記共有口座の開設を受けておき、債務者共有持分についての譲渡命令が確定した後に、裁判所書記官及び上記共同相続人全員が、被相続人名義の口座を開設した口座管理機関に対し、債務者共有持分を含む振替株式等につき、被相続人名義の口座から上記共有口座への振替の申請をし、上記共有口座に記録等をするという方法が採り得るように思われるとしつつ、これを否定していきます。


しかしながら、まず、上記の振替方法を実現するためには、口座管理機関が共有口座を開設することが必要になるが、振替株式等につきそのような取扱いが実際には広く行われているようには思われないと。

また、共有口座の開設や債務者共有持分についての譲渡命令が確定した後の振替の申請には、債務者以外の共同相続人全員の協力を得る必要があることも否定し難く、その協力が得られなければ上記の振替方法の実現には困難を伴うこととなる。

まあ、なかなかあり得ない方法ですよね。

 

このような方法では、差押え債権者にリスクがあることになります。

そこで、本来ならば、口座管理機関が共有口座の開設に応じる運用を行い、差押債権者以外の者の協力がなくても債務者共有持分についての譲渡命令に基づいて差押債権者の権利を実現することを簡易に実現するような法令上の仕組みを設けることが望ましいともいえようとしています。

現状においては、差押債権者としては、譲渡命令が確定した後、債務者共有持分を含む振替株式等につき債務者以外の共同相続人全員との間で共有物の分割を行って債務者共有持分について換価を図るのが現実的であると考えられるが、このような余地があり得る以上、債務者共有持分についての譲渡命令の申立てがおよそ不適法であるとすべきものではないと締めています。

業界への提言と、現時点での一応の方法が考えられる以上、差押え自体を否定するものではないということですね。

 

 

 

株式の相続の性質

株式が共同相続されると、当然に分割されるのではなく、準共有となります。

投資信託受益権も同様です。

これらの相続財産は、遺産分割や共有物分割をしないと、相続人は単独で株式を取得できません。

社債等振替法の譲渡手続に進めないのです。

最高裁は、民事執行規則150条の3による差押命令が適法にできるとしました。

相続により口座開設者としての地位も承継されること、被相続人名義の口座に記録された振替株式等は、相続人の口座に記録等がされているものと評価できることを理由としています。

なお、改正民事執行規則150条の7第4項では、裁判所書記官に振替手続を執るよう命ずる時機について改正がされています。

譲渡命令の確定ではなく譲渡命令の発効に変更されています。

 

 

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